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大阪地方裁判所 昭和40年(ワ)4935号 判決 1967年7月15日

原告 大坂花子

右訴訟代理人弁護士 新堂賢二

被告 山本加代子

右訴訟代理人弁護士 水田猛男

主文

被告は原告に対し金一〇万円及びこれに対する昭和四〇年一一月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その一を被告、その余を原告の負担とする。

この判決の第一項は、原告が金三万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、被告は原告に対し金五〇万円及びこれに対する昭和四〇年一一月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。との判決並びに仮執行宣言を求め、請求原因として、次のとおり述べた。

一、原告は、訴外大坂太郎と、昭和二七年五月一八日大阪市において結婚の儀式を挙げ、同年六月九日大阪府守口市長に婚姻の届出をなした。

二、原告は、右結婚後は訴外大坂太郎と大阪市○○区○○町○丁目○○番地の二に同居し、平和な夫婦生活を営み、夫婦間には昭和二八年二月九日長男一郎が、昭和二九年一二月二二日二男二郎が、昭和三二年四月二三日長女恵子がそれぞれ出生している。

三、訴外大坂太郎は、原告と結婚した当時は○○造船株式会社○○工場の曳船船長をしていたが、昭和二九年その職を退き、○○○○株式会社を設立しその役員となったが、昭和三五年同会社が名古屋市に出張所を設置して以来名古屋市に出張することが多くなった。

四、被告は、名古屋市栄町グランドビル三階でクラブ「ゆう」と称するバーを経営するものであるが、訴外大坂太郎を誘惑し同人に妻たる原告がいることを知りながら同人と不倫な関係を結び、昭和三八年九月頃には両名は大阪市東淀川区長柄にアパートを借受け同棲するに至った。

五、原告は、昭和三七年一一月下旬頃右事実を知ったが、その後今日に至るまで夫の訴外大坂太郎に対し一刻も早く不倫な関係を清算し原告の家庭に戻ることを要請するとともに、被告に対しても夫との関係を断つことを懇請し続けて来た。

六、しかるに、被告は、原告の右懇請にもなんら応ずることなく故意に訴外大坂太郎との不倫な関係を継続し、原告と訴外大坂太郎との間の夫婦の愛情にひびを入らせてその夫婦関係を侵害し、妻たる原告に対し精神上の苦痛を与えた。

七、よって、原告は、被告に対し、右不法行為による慰藉料金五〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四〇年一一月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、請求原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

一、請求原因一ないし三の各事実は認めるが、同四ないし六の各事実は争う。

二、被告が原告の夫訴外大坂太郎と初めて知り合ったのは、昭和三六年二月のことであるが、訴外大坂太郎はそれ以前に大原美知子という愛人があり同女とのことで原告との間には常に争いが絶えず、原告も度々子供を置去りにして家出し被告が訴外大坂太郎と知り合った当時原告と訴外大坂太郎との間には既に夫婦愛は失われていた。被告は、訴外大坂太郎を誘惑したことはなく、また未だ曽て同人と同棲したことも夫婦約束をしたこともない。被告は、原告から訴外大坂太郎との関係を絶つように頼まれたことは一度もないが、被告にも子供があるので訴外大坂太郎との関係を絶つことは被告の念願するところでもあり、被告は訴外大坂太郎に対し再三再四別れるように頼んだが、同人はその都度暴力を振ってこれを聞き入れず、昭和三八年一〇月四日弁護士が間に入って漸く被告と訴外大坂太郎との関係を清算解消する約定が成立し安堵していた矢先本訴が提起されたものである。

証拠≪省略≫

理由

原告は訴外大坂太郎と昭和二七年五月一八日大阪市において結婚式を挙げ同年六月九日大阪府守口市長に婚姻の届出をしたこと、原告は結婚後は右訴外人と大阪市○○区○○町○丁目○○番地の二に同居して夫婦生活を営み、夫婦間には昭和二八年二月九日長男一郎が、昭和二九年一二月二二日二男二郎が、昭和三二年四月二三日長女恵子がそれぞれ出生していること及び訴外大坂太郎は原告と結婚した当時は○○○○株式会社○○工場の曳船船長をしていたが、昭和二九年その職を退き○○○○株式会社を設立しその役員となったが、昭和三五年同会社が名古屋市に出張所を設置して以来名古屋市に出張することが多くなったことは、いずれも当事者間に争いがない。

そして≪証拠省略≫を綜合すると、次のような事実を認めることができる。即ち、訴外大坂太郎は、昭和三五、六年頃名古屋市で開かれたクラス会の帰途同市にある当時被告の勤めていたバーに立寄りそのバーのホステスである被告と初めて知り合い、その後間もなく被告から積極的に誘惑したわけではないが被告と情交関係を結ぶようになり、名古屋に出張するたび月に四日ないし七日は被告のところに泊まるようになった。被告は、右訴外人に妻があることは当初から知っていたが、当初は右訴外人がそれ以前にも女性関係があり原告との間に日常争いが絶えず原告も家出別居をしていた状況から原告とは離婚すると公言していたのでそれを信じていた節もあるが、間もなく原告が家に戻り右訴外人と再び同居するようになったことを知ってからも依然として右訴外人との関係を続けていた。そして昭和三八年には両名は大阪市○○○区○○にアパートを借受け、同棲こそしないが右訴外人は月に数度はこのアパートを訪れ被告方に泊まっていた。原告は右訴外人と被告との関係をそれ以前から薄々勘づき右訴外人に関係を絶つよう頼んでいたが、昭和三八年右両名がアパートを借受けていることを知るや同アパートに赴き初めて直接被告にも面談し右訴外人との関係を絶つよう懇請した。被告はその後一週間程して右アパートを引き払ったが、右訴外人との関係は原告の再三の懇請にも拘わらず口頭あるいは書面で解消することを誓約するだけで依然として継続し今日に及んでおり、そのため原告と右訴外人との間には深刻な家庭不和を生じている。右訴外人は被告に対し現在でも月に二万円ないし三万円を送金し被告はそれを生活費の一部に充てている。かような関係の持続については、終始右訴外人の方が積極的であったといえるが、被告も自ら積極的にこの関係を解消しようと努力することなく安易にこの関係を継続している。以上のとおり認めることができる。≪証拠判断省略≫。右認定の事実によれば、被告が訴外大阪太郎と同人に原告という妻があることを熟知しながら情交関係を継続し原告らの家庭の平和を侵害したことは明らかで、これにより原告が多大の精神上の苦痛を蒙ったことは容易に推認し得るところであるから、被告の右所為が不法行為となることはいうをまたない。従って、被告は原告に対し慰藉料を支払う義務がある。

そこで、その慰藉料の額について考えるに≪証拠省略≫によれば原告は現在四二才であり女子商業卒業後一〇年ほど勤めに出てから訴外大坂太郎と見合結婚したものであることが認められ、≪証拠省略≫によれば、被告は現在三六才で前夫とは協議離婚しその間の一四才の子を養育しているもので定職にはついておらず訴外大坂太郎からの前記送金とバーやお茶漬屋で内職程度に働いて得る月二万円程度の収入とで生活していることが認められるので、これとさきに認定した原告と訴外大坂太郎との婚姻継続期間、被告の不法行為の内容殊に被告と訴外大坂太郎との不倫な関係の持続については右訴外人の恣な愛欲によるところ大だとしてもこれを抑止し自ら関係を絶たうとしない被告の安易な生活態度にも責任の一半を帰せしめ得ること、その他本件に現われた一切の事情を綜合して、金一〇万円が相当であると考えられる。

そうすると、被告は原告に対し慰藉料金一〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四〇年一一月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負うことは明らかである。

よって、原告の本訴請求を右の限度で正当として認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条本文、仮執行宣言につき同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 露木靖郎)

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